ショウガ(生姜、生薑、薑。学名は Zingiber officinale)はショウガ科の多年草であり、野菜として食材に、また生薬として利用される。
熱帯アジアが原産という説が最も有力だが、野生のショウガが発見されたことがないためショウガの原産地は厳密には不確定である[1]。長い間インドのポンディシェリの近くにgingi地方という地域があって、そこがショウガの原産地と考えられていた。それがラテン語のジンジベル(Zingiber)の語源という説もあったが、今日ではサンスクリット語のショウガ(cringa-vera)のペルシア語訳(dzungebir)が語源と見られている[2]。
インドでは紀元前300-500年前にはすでに保存食や医薬品として使われ、中国でも論語の郷党編の中で孔子の食生活にはじかみの記述があり、紀元前650年には食用として利用されていたことが窺われる。ヨーロッパには紀元1世紀ごろには伝わっていたとされる。しかしヨーロッパは気候が栽培に向かず、産物として輸入はされたが古代ギリシア人もラテン人も料理にショウガを活用することは少なく、主に生薬として利用した[3]。
日本には2-3世紀ごろに中国より伝わり奈良時代には栽培が始まっていた[4]。『古事記』に記載があるように早くから用いられている。古くはサンショウと同じく「はじかみ」と呼ばれ、区別のために「ふさはじかみ」「くれのはじかみ」とも呼ばれた。また、大陸からミョウガとともに持ち込まれた際、香りの強いほうを「兄香(せのか)」、弱いほうを「妹香(めのか)」と呼んだことから、これがのちにショウガ・ミョウガに転訛したとする説がある。
中世のヨーロッパではショウガの需要がコショウに匹敵するほど高まった。14世紀のイギリスでの相場はショウガ1ポンド(約450グラム)でヒツジ一匹の価格に相当した。ヨーロッパ人が植物としてのショウガを初めて見て記録したのは、13世紀にマルコ・ポーロがインド・中国で見た時のものが初めてであるという。15世紀末に新大陸が発見されると、ショウガはすぐに栽培作物として持ち込まれ、16世紀半ばには西インド諸島はショウガの産地となった[5]。
ショウガは地下に根茎があり、地上には葉だけが出る。葉はまっすぐに立った茎から両側に楕円形の葉を互生したように見えるが、この茎はいわゆる偽茎で、各々の葉の葉柄が折り重なるように巻いたものである。花は根茎から別の茎として出て、地上に鱗片の重なった姿を見せる。花はその間から抜け出て開き、黄色く、唇弁は赤紫に黄色の斑点を持つ。ただし開花することは少ないため、根茎による栄養繁殖が主である[6]。このため、品種の分化は少ない。
ショウガの根茎は、ギンゲロールとショウガオールに由来する特有の辛味とジンゲロン、ジンギベレンに由来する独特の香りを持つ。産地により香りの傾向が異なり、アフリカ産は樟脳のような匂い、インド産はシトラールの匂いに特色がある。
ショウガの生産はインド、中国、ネパールが盛んであり、その次にナイジェリア、タイと続く[7]。
日本の主な産地は高知県に集中しており、四万十町(旧窪川町)、土佐市、高知市、越知町などの産地がある。ほかには熊本県八代市(旧東陽村)、宇城市(旧小川町)、和歌山県和歌山市、宮崎県宮崎市(旧佐土原町)、千葉県八街市、富里市、静岡県静岡市などがある。高知県では土生姜が主流で、熊本、和歌山、宮崎などでは新生姜、静岡市では葉生姜の生産が主流となっている。
ショウガは栽培・収穫方法により根生姜、葉生姜、矢生姜(軟化生姜)に分類される[8][9]。
ショウガは大きさ別に見ると大生姜・中生姜・小生姜の3種類に分けられる[8]。
ショウガは主に香辛料として使われる。日本料理ではすりおろすか、すりおろしたものを醤油と合わせて生姜醤油とするか、千切りにする(針生姜)か、刻んで振りかける使い方が多い。カツオ(初鰹)の付け合せの定番となっており、ほかに冷奴、素麺、アジの寿司やたたきなどに生姜は欠かせない薬味とされている。地方独特の使用例では、姫路市でおでんを生姜醤油で、青森市では生姜味噌で食べる習慣がある。そのほか、カレー、酸辣湯などの料理にさわやかな辛味をつけるのに用いられる。
日本料理、中華料理では魚や肉料理の臭味を消すためにも多用される。煮物、炒め物、スープに薄切りしたものを加える事が多い。
ショウガの根茎をそのまま食べるものとして、酢、塩、砂糖で調味した生姜の甘酢漬け(ガリ)や、梅酢で漬けた紅生姜がある。薄くスライスした甘酢漬けは寿司と共に出され、符牒ではガリと呼ばれる。紅生姜は、細かく刻んで焼きそば、たこ焼きなどに加えたり、ちらし寿司、牛丼などに添えられる他、新生姜を皮を剥いただけの根茎のまま酢漬けしたものもよく出回り、そのままでも食べられる。関西の一部地域では薄く切って天ぷらの定番食材として用いられている。
ショウガの芽を湯通しして甘酢に漬けたものを、はじかみあるいははじかみ生姜という。焼き魚等に彩りや口直しとして添えられる。端が赤いことから「はし赤み」が転じて「はじかみ」になったといわれる[要出典]。または、「はじかみ」とは顔をしかめる意で刺激的な味を表す語に由来するとも言われる[11]。また、根茎に砂糖を加えて煮てから、さらに砂糖をまぶした砂糖漬けも作られる。
生姜飴、生姜糖、葛湯、冷やし飴(飴湯)、ジンジャーエール、生姜茶(センガンチャ)などの材料として、甘い味と合わせて用いる事も多い。
欧米や中東諸国では乾燥させたドライジンジャーを利用することが多い。ジンジャークッキー、ジンジャーブレッドなどの焼き菓子にも用いられる。
ショウガの絞り汁に含まれる酵素のタンパク質凝固作用を利用する使い方がある。中国広東省広州市の沙湾鎮では、水牛乳または牛乳を約70℃に温め、砂糖で甘みを付けた中に絞り汁を加え、軟らかいプリン状に固めたデザート「薑撞牛奶」(広東語 キョンジョンアウナーイ)ショウガ牛乳プリンが名物として作られている。現在は香港、マカオ等にも広まり、甘味処などで食べることができる。
沙湾の近隣の仏山市順徳区でも牛乳プリンに加えることもあるが、この場合は凝固剤ではなく風味付けである。
ショウガの根茎は生薬として生姜(しょうきょう)と呼ばれ、中国では紀元前500年頃から薬用として利用されている。発散作用、健胃作用、鎮吐作用があるとされる。発散作用は主に発汗により寒気を伴う風邪の初期症状の治療に使われ、健胃止嘔作用は胃腸の冷えなどによる胃腸機能低下防止などに使われることが多い。辛温(辛味により体を温める)の性質を持つため、中医学で言われる熱証(熱を持ちやすい体質)には用いない。大棗との組み合わせで他の生薬の副作用をやわらげる働きがあるとされ、多数の方剤に配合されている。表面の皮を取り去り、蒸して乾燥させたものは乾姜(かんきょう)と呼ばれる。興奮作用、強壮作用、健胃作用があるとされる。生姜よりも熱性が強い辛熱の性質があるとされるので胃腸の冷えによる機能障害では乾姜を使う場合が多い[11]。いくつかの研究では、妊婦の吐き気・嘔吐の緩和に役立つかもしれないとの証拠がある[3]。
日本薬局方においては、単に乾燥させた根茎を生姜(しょうきょう)、蒸してから乾燥させたものを乾姜と区別している。なお、乾生姜(かんしょうきょう)とは、新鮮な生姜(鮮姜、せんきょう)に対して区別する言葉として使用されており、日本薬局方の「生姜」と同じものである。また、生姜を加えた葛湯は、体を温めて、免疫力を高めるため、風邪の民間療法によく用いられる[11]。
生のショウガや搾汁液[13]には、主要食中毒原因菌のサルモネラ菌、カンピロバクター、ビブリオ属菌、黄色ブドウ球菌に対する殺菌(増殖抑制)作用は無く、アスコルビン酸など含有成分の影響により大腸菌に対しては菌生育促進効果が有ることが報告されている[14]。また、酒造酵母の増殖を促進する効果も報告されている[15]。
更に、チューブ入り摺り下ろし加工品[16]での発育阻止作用を調べた試験では、効果が無いことが報告されている[13]。ただし、甘酢漬け品(ガリ)では、食酢が増殖抑制作用(抗菌作用)をもたらしている[17]。
一方、精製分離したギンゲロールなどの精油成分には幾つかの細菌の増殖を抑制する効果のある事が報告されている[15][18][19]。しかし、有効性があるとする報告は一部の細菌と大腸菌性下痢に対するもの[20]である。
かつて、デザイナーフーズ計画のピラミッドの1群に属し、ダイズと共に、癌予防効果のある食材の第3位として位置づけられていた[21]。
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