キノドン類(キノドンるい、Cynodont あるいはキノドン亜目、Cynodontia)は、四肢動物 - 単弓綱 - 獣弓目の分類群の一つ。広義には哺乳類を含む。語源は「犬(cyn-)の歯(odont-)」。
キノドン類は絶滅したゴルゴノプス亜目及びテロケファルス亜目とともに、獣歯類というクレードに分類される。その起源は古生代ペルム紀後期、獣弓類テロケファルス亜目に近いグループから派生したといわれている。最も古いキノドン類は、2億4,800万年〜2億4,500万年前に生息したCharassognathus及びドヴィニアと呼ばれる生物であった。次いで現れたのが、プロキノスクスである。この生物は、カワウソの様に水中生活に適応していたのではないかといわれている。これらの種がペルム紀に生息していたが、他に圧されて目立つ存在ではなかった。主要なニッチは他の種に占められていたので、水際などへと生活の場を求めたと思われる。
ペルム紀末から三畳紀初頭にかけ(P-T境界)、パンゲア大陸の完成の影響により発生した超大型のホットプルーム「スーパー・プルーム」がドーム状の押し上げとなって地上に達することでシベリアに大噴火が起こり、これによって大規模な環境破壊が引き起こされた。地上は高温にさらされ、それまで30%近くあった酸素濃度が大きく低下した。この大量絶滅によって地球上の生命の9割が淘汰された。高温を避け、低酸素の環境にも耐え得る能力を持った生物のみ(気嚢システムを持つ鳥の祖先である恐竜のさらなる祖先含む)が地上では生きながらえる事が出来たのだった。それには穴居性が大きく関わっていると思われる。同じく生き延びたディキノドン類も、こうした性質を持つものがいた。
絶滅を免れたキノドン類は、空白となった生態系を埋めるべく、速やかに適応放散していった。トリナクソドンなどのガレサウルス類は、腹部の肋骨を退化させ、腹式呼吸を行うことができる横隔膜を獲得していた。これによりかれらは低酸素の環境を乗り切る事が出来たと思われる。このグループの特徴としては、進化するにつれ頭頂孔が消失し、後頭顆が1対となる。肋骨が胸部のみになり、胸腔と腹腔に分かれる。また、不完全ながらも直立歩行を獲得している、などである。そしてもう一つ。顎を構成する骨のうち、歯骨の拡大が大きく進んだ事が挙げられる。
特に進化した種では、この骨が関節骨と方形骨によって構成された顎関節に接触、鱗状骨(側頭骨の一部)との新たな関節が形成されている。後の哺乳類などを含む、ユーキノドン類である。その中から、キノグナトゥスなど有力な捕食者やディアデモドン、トラベルソドンなど草食に適したもの、小型で哺乳類に似たトリティロドン類、イクチドサウルス類などが現れている。
この傾向が更に進み、関節骨と方形骨が顎から外れ、耳小骨となっているのが哺乳類である。かつてはこの顎関節の特徴により哺乳類が定義されていたが、近年は原始的なグループが外され、哺乳形類とされるようになった。最古の哺乳形類といわれるアデロバシレウスは、2億2500万年前に生息していた。しかし、三畳紀後期、再び中程度の大量絶滅が地球を襲い、キノドン類はトリティロドン類や哺乳類など、ごく少数の系統を除いて絶滅した。
ジュラ紀以降、キノドン類は大型動物のニッチを恐竜など大型爬虫類に奪われ、小型のままであった。ただし、中生代においても、数の上では哺乳類は恐竜を大きく上回っていたと考えられている。その一方で、オリゴキフス等のトリティロドン科は次第に数を減らしていく。そして白亜紀前期、石川県で発見された歯の化石が、その最後の記録である。ちなみに、カナダの6,000万年前の地層から「クロノペラテス(英語版)(時の放浪者)」と呼ばれる、キノドン類のものと思われる顎の断片が発見されている。しかし否定的な意見もあり、その正体は不明のままとなっている。
それ以降については、哺乳類の項を参照。
キノドン類は、現在の哺乳類が持つ特徴の大半を既に有していた。異歯性は顕著であり、頭蓋骨は後頭部でオーバーハングしている。また、既に初期段階において体毛を獲得していたと思われる。また、テロケファルスを除く獣弓類には存在しなかった骨性二次口蓋も、初期段階において既に獲得していた。これは、咀嚼と同時に呼吸が出来た事を示している。つまり、それだけ大量の酸素を必要としていた訳であり、既に彼らは恒温性を獲得しつつあったのではないかと思われる。これは、身体を丸め、眠った姿のまま化石化したキノドン類の化石からも伺える。彼らのその姿勢は現在の小型哺乳類と同様、体温を逃さぬ為のものだったと思われる。初期獣歯類であるゴルゴノプス類の化石の吻部に既に洞毛の痕跡が認められる事からも、既にかれらは体毛も獲得していたと思われる。
特に記さないものは、哺乳類以前の種について述べている。