ハチクマ(蜂熊、八角鷹、蜂角鷹、学名:Pernis ptilorhyncus)は、鳥綱タカ目タカ科ハチクマ属に分類される鳥類の一種である。和名は同じ猛禽類のクマタカに似た姿で、ハチを主食とする性質を持つことに由来する。
ユーラシア大陸東部の温帯から亜寒帯にかけての地域に広く分布する。ロシアのバイカル湖付近から極東地域、サハリン、中国東北部にかけての地域とインドから東南アジアで繁殖し、北方で繁殖した個体は冬季南下して、インドや東南アジア方面の地域に渡り越冬する。
日本で繁殖した個体は、同様に東南アジアにわたるサシバが沖縄・南西諸島を経由して渡りをおこなうのとは異なり、九州から五島列島を経て大陸に渡り、そこから南下する。鹿児島県下甑島を通過する個体もおり、年齢を判別できた個体のうち、幼鳥が92%であった[1]。渡りの方向は西方向が中心で北や南への飛去も観察されている[1]。春には秋とは異なる経路をとり、大陸を北上した後、朝鮮半島から南下することが人工衛星を使った追跡調査から明らかになっている。
全長57 - 61cm。雌の方がやや大きい。体色は通常体の上面は暗褐色で、体の下面が淡色若しくは褐色であるが、特に羽の色は個体差が大きい。オスは風切先端に黒い帯があり、尾羽にも2本の黒い帯があり、瞳が黒い。メスは尾羽の黒い帯が雄よりも細く、瞳が黄色い。
6亜種に分類される。ユーラシア大陸西部に分布するヨーロッパハチクマ(P. apivorus)とは近縁種で、同種とする見解もある。
丘陵地から山地にかけての森林に、単独かつがいで生活する。日本での産卵期は6月で、樹上に木の枝を束ね産座に松葉を敷いたお椀状の巣を作り、1-3個(通常2個)の卵を産む。抱卵期間は28-35日で、主に雌が抱卵する。雛は孵化してから35-45日で巣立つ。巣立ち後30-60日程度で親から独立する。冬になると東南アジアに渡って越冬するが、毎年同じ縄張りに戻ってきて育雛をする。このとき巣も毎年繰り返し再利用するため、年々新たに付け加えられる木の枝によってかなりの大きさとなる。その下部は排泄物がしみこんで富栄養の腐植質となるが、ここでハナムグリの一種であるアカマダラコガネの幼虫が発育する。
食性は動物食で、夏と冬にはスズメバチ類やアシナガバチ類といった社会性の狩り蜂の巣に詰まった幼虫や蛹を主たる獲物とし、育雛に際してもばらばらの巣盤を巣に運んで雛に与える。コガタスズメバチのような樹上に営巣するハチのみならず、クロスズメバチやオオスズメバチなど、地中に巣を作るハチの巣であっても、ハチが出入りする場所などから見つけ出し、同じ大きさの猛禽類よりも大きい足で巣の真上から掘り起こし、捕食してしまう。また、時には養蜂場のハチの巣を狙うこともある。
ハチの攻撃を受けてもハチクマは滅多に刺されることはないが、これは硬質の羽毛が全身に鱗のように厚く密生しており、毒針が貫通しないためと考えられている。また、ハチクマの攻撃を受けたハチはやがて反撃をしなくなることがあるが、詳しい理由は判明していない。ハチの攻撃性を奪うフェロモン、もしくは嫌がる臭いを身体から出しているという説や、数週間にわたって、時には複数羽で連携してしつこく巣に波状攻撃を仕掛けることで、ハチに巣の防衛を諦めさせ、放棄して別の場所に移るように仕向けさせているという説がある[2]。
ハチ類の少なくなる秋から冬にかけては昆虫類や小鳥、カエル、ヘビ等の動物も捕食する。
猛禽類では餌を独占する傾向が強いが、ハチクマは、餌を巡り滅多なことでは同種同士で争うことはない。これは上記のように集団で巣を襲うからと考えられる。