サシハリアリ (Paraponera clavata) はアリの一種である。ニカラグアからパラグアイまでの、湿潤な低地多雨林に生息する。刺された時に24時間痛みが続くことから、現地では“Hormiga Veinticuatro”(24時間のアリ)という名を持つ[1]。また、英語では“lesser giant hunting ant”と呼ばれる[2]。
働きアリは18–30 mm[3]、赤黒く頑強である。肉食性であり、他の原始的なアリと同じくカーストによる多型を示さない。女王アリは働きアリと比べそれほど大きくない。[4]。
巣は樹の根元に作られ、数百から千匹程度のアリが属する。働きアリはその樹に登り、小型節足動物や甘露などを摂食する。甘露は主要な餌であり、大顎の間に挟んで運ぶ。樹冠にまで登ることもあるが、地上では活動しない。パナマのバロ・コロラド島 (BCI) とコスタリカで行われた2つの研究では、1 haあたり4つの巣が確認された。BCIでは、巣は70種の木本・6種の低木・2種のつる性木本・1種のヤシの下で見られた。最も巣の数が多かったのはアカネ科のFaramea occidentalisとセンダン科のTrichilia tuberculata の下だったが、これはBCIの森に最も多い樹種である。巣の出現頻度が高かった樹種は、アカネ科のAlseis blackiana ・サンユウカ属のTabernaemontana arborea ・ニクズク科のVirola sebifera ・センダン科のGuaria guidonia ・ヤシ科のOenocarpus mapora などであった。樹への選択性はそれほど強くないと考えられるが、BCIでの調査では、板根や花外蜜腺を持つ樹が好まれるようである[5]。
本種に刺された時の痛みはあらゆるハチ・アリの中で最大であるとされ、Schmidt Sting Pain Indexではオオベッコウバチの上である“4+”とされている[1]。ペプチド性神経毒のポネラトキシンが単離されており、電位依存性のNaイオンチャネルに作用して神経伝達を阻害する。この毒を医療に応用する研究も進められている[6][7]。
ブラジルの先住民族Satere-Maweは、戦士となるための通過儀礼に本種を用いる[8]。まず植物抽出物を用いてアリに麻酔をかけ、ヤシの葉に縫い込む。次に、針が内側を向くような手袋の形に整える。アリの麻酔が解けたあとで手袋に手を挿入し、10分程度耐える。この時針からの保護として、手に炭を塗ることが認められる。儀式のあと数日は手に痺れが残るという。この儀式を20回、数か月から数年かけて行うことで、通過儀礼が完了する[9][10]。
本種は攻撃的であり、隣接する巣の間での戦いがよく起こるため、負傷した働きアリが多く発生する。Apocephalus paraponerae はこのような負傷した働きアリに寄生する、1.5–2 mmのノミバエ科のハエである。健常なアリはハエを追い払うことができるため寄生されないが、人工的に寄生させることは可能である。このハエは傷ついたアリの匂いに誘引され、そこで摂食・交尾・産卵が行われる。潰したアリには2-3分の内に、10匹近くのハエが群がる。アリ1匹当たり20匹の幼虫が寄生する[3][11]。