サソリ(蠍、蝎)は、節足動物門鋏角亜門クモ綱サソリ目 Scorpiones に属する動物の総称である。前に鋏、尾に毒針を持つが、命にかかわる毒を持つものはごく一部の種類である。
少なくとも4億3千万年以上前から存在したことが確認されており、現存する陸上生活史を持つ節足動物としては世界最古にあたる(ただし初期のサソリは水生動物であり、陸上進出自体はヤスデに後れをとった)。
頭胸部と腹部はくびれずにつながっている。腹部は前腹部と後腹部に分かれる、後腹部は長い尾部になり、曲げ伸ばしができる。その先端の尾節は少し膨らんで、曲がった毒針になっている。
鋏角は短い鋏状、触肢は長く発達した鋏になっている。歩脚は4対で、第1対が最も短く、後方の歩脚ほど長くなる。第四脚の付け根には、櫛状板と呼ばれる、整髪用の櫛の形の器官が左右1対ついている。腹部の腹面には各節に1対ずつ、4対の書肺がある。
現生のサソリは頭胸部前方側面に2~5対の単眼の列(側眼)を、また頭胸部中央には上向きに露出する接近した1対の単眼(中眼)をもつ。
サソリは一見すると、その形状から陸生甲殻類と思う人も多いが、甲殻類との類縁関係は遠く、鋏角亜門クモ形類に属し、クモ類やヒヨケムシに近縁であり、符節や脚部の構造にもこれらとの共通点が見られる。また、触肢と呼ばれるハサミの可動爪がエビやカニでは上側なのに対し、サソリでは下側であるのも特徴である。
サソリの体の構造は、様々な点で古生代前期に繁栄したウミサソリ類に似ており、特に体節の数や、全体のシルエットが似ていることから、直接の類縁関係があると言われる。しかし、これには疑問を唱える向きもある。
現在知られている中での最大のサソリは、アフリカに生息するダイオウサソリ(エンペラースコーピオン)で最大20cm以上に達する。
歩く時は尾部を曲げて体の上の前方にのばす。餌を獲った時には、鋏で固定した餌に尾部の針を刺し、毒液を注入し、鋏角で小さくちぎって食べる。
肉食で、昆虫などを餌にするが、時にはトカゲなどの小動物を襲う。それほど大食いではなく、絶食に耐えるものが多く、中には1年以上の絶食に耐えるものもある。
主に夜行性で、昼間は岩の下や土の中、何かの隙間にいることが多い。元来活動はあまり活発ではなく、じっとして獲物が通るのを待っていたりする。
サソリ類の配偶行動は、婚姻ダンスとして有名である。雌雄が互いの触肢、あるいは鋏角をつかみ合って、前後左右に動き、種によってはそれが数時間以上も続けられる。最終的に、雄は精包を地上に置き、そこへ雌を誘導し、雌はその精包を生殖口から取り入れることで、配偶行動は完了する。
サソリ類は、卵胎生と胎生の種に分けられ、雌親はサソリの形の幼生を産む。生まれた幼生は雌親の体の上に登り、その背中でしばらくの時間を過ごすが、一週間か10日ほどで独立し、自立生活に入る。
ヤエヤマサソリは雌性産生単為生殖することが分かっているが、個体数は少ないものの雄も存在する。その他10ほどの種で単為生殖が知られる。
雌雄の見分け方は腹部にある櫛状板(ペクチン)が大きい方が雄であるといわれる。
また、雌の方が体が全般的に大きく、太っているが、雄の方は雌を交尾の婚姻ダンスの際に、雌を押さえつけておくために、雌よりも鋏が大きいというのも見分け方の一つである。
サソリの婚姻行動は相性の悪い相手であれば、お互いに刺しあってどちらか一方を殺してしまったり、雌が雄を一方的に食べてしまったりするような行動をとってしまうケースもある。
ファーブルはその行動を観察して、サソリはカマキリやクモのように、交尾後に雌が雄を捕食してしまうと思ってしまったが、これは狭い飼育ケージ内での観察であり、野外においての交尾後の共食いは少ないのではないかといわれている。
サソリ類は世界に多く分布しており、種数は1000を超える。基本的には暖かいところに多く、熱帯地方が分布の中心ではあるが、かなり寒い地方まで分布している種もある。日本では、南西諸島に2種が分布するだけだが、アジア大陸では、北朝鮮、内モンゴルにまで分布がある。湿潤な気候に生息する種もあるが、砂漠に生息する種もあり、適応範囲は広い。ヨーロッパでは地中海周辺地域に生息する。人間の生活範囲に生息するものもあり、それらの生活圏内に住む住人は、かならず靴を履く前に、中にサソリが入っていないか調べると言われる。このような種は、まれに荷物に紛れて輸送されることがあり、日本でも港で発見され、大騒ぎになることがある。
サソリの尾の先には毒針があり、これを使って毒を注入することは一般的によく知られており、猛毒により人が刺されたら死ぬ場合もあるとして恐れられている。神話伝説にも猛毒を持つサソリの話はたびたび出てくる。ギリシア神話では、英雄オーリーオーンを殺してさそり座になったサソリの話が有名である。神話や逸話によりサソリの毒性は誇張された形で認知されている。実際には、ほとんどのサソリの種は大型哺乳類を殺せるほどの猛毒は持っていない。その理由は、サソリは昆虫など小動物を捕食する際に毒を使うことがほとんどであり、大型動物にそれを使うのは防御行動で、本来は大型哺乳類の殺傷を目的としたものではないからである。人間に対して致命的な毒を持つものも存在するが、その数は約1000種類中に僅か25種と少ない。
日本産の種の毒性は低い。日本以外の地域に生息する種でも人命に関わるような毒性を持つものは少ない。しかし、真に危険なものも実際に存在し、サソリによる死者は世界で年間1000人以上とも言われる。また、人家周辺に生息する種もあり、地域によっては被害を受けやすく、南方地域では、靴を履く時に、靴を裏返してサソリがいないかどうか確かめる地域があるとされる。
毒性の弱い種であっても、刺された結果スズメバチの場合と同様アナフィラキシーショックのような症状に陥ることはある。
人命に関わる猛毒をもつ種類はイエローファットテールスコーピオン、ストライプバークスコーピオンなど。この中でも最強の毒をもつのは中東に生息するオブトサソリといわれている。それら強力な毒を持つサソリの多くは、キョクトウサソリ科で占められており、現在これらキョクトウサソリ科のグループは、日本への輸入が原則禁止となっている。密輸事件も起きている。
漢方の生薬学においては、有名なものではトリカブト(附子)などのように、毒性を持つものが独特の効力を発揮するものとして、しばしば生薬に利用されるが、毒性を持つサソリも卒中や神経麻痺・痙攣に効果があるとされる。生薬名を「全蝎」というが、これは生きたままのサソリを食塩水で丸ごと煮てから、全体を乾燥させたものを、生薬として使用されることからこう呼ばれている。
昆虫などをエサにするサソリだが、実はサソリ自身にも多くの天敵が存在し、それらの捕食動物相手には、毒針と鋏を振るって応戦するが、相手によっては毒に免疫を持っている場合もあり、自分より大きな動物相手には一方的に捕食されてしまうケースが多い。
サソリの天敵はイタチやジャコウネコ科などの肉食性ほ乳類や、鳥類、は虫類、他に同じサソリや、肉食性の昆虫類にオオツチグモ類やムカデ類などにも捕食される。
毒を持つサソリ類を好んで食べるクジャクは古代から益鳥として尊ばれ、仏教では孔雀明王として信仰対象にも取り入れられた。
サソリは見た目がザリガニのように見えるので、堅い皮膚を持っていそうだと思われがちだが、クモ類よりは堅いとはいえ、甲虫や甲殻類に比べればそれほど堅くないために、他の多くの肉食動物の格好のエサにされてしまうようである。
サソリが一般に暗闇や物陰を好むのも、こういった多くの天敵から逃れる手段ではないかと考えられる。
サソリに暗闇でブラックライトを当てると、どの種も緑色に光る。表皮にあるヒアリン層が蛍光を発するとされるが、これには少なくともβ-カルボリンが関わっている[1]。
産まれたてのサソリにはヒアリン層がないが、脱皮を重ねて成長する毎に増え、発光現象が強くなる[2]。液浸標本にしても、周囲にヒアリン層が溶け出して、光るのだという。また、脱皮した後の脱皮殻も光る。
サソリの他のクモ類、さらに昆虫類と一部のヤスデも類似の蛍光現象がある。[3] [4]
ウミサソリ類は形態的に共通点が多く、一部の種は陸に上がったと思われることもあって、これがサソリ類の直接の先祖であるとの考えがある。これには異論があるものの、サソリがクモ綱の中で最初期に分化した生物であるということについては長く信じられている。化石は古生代シルル紀まで遡る。中生代までのものは水中生活のものがあったと考えられる。 この類に見られる卵胎生や胎生は陸上生活への適応と見られる。
鋏角亜門 Chelicerataクモ、ダニなど
以下の2種が知られる。いずれも広域分布種である。