ソウダガツオ(宗太鰹、宗田鰹)は、スズキ目サバ亜目サバ科・ソウダガツオ属 Auxis に属する海洋生条鰭類(硬骨魚類)、ヒラソウダ[1]・マルソウダの[2]、両種を指す混称である[3]。
これらはそれぞれヒラソウダガツオ・マルソウダガツオと呼ばれることがある[4][5][3]。
全世界の熱帯・亜熱帯・温帯海域に広く分布する肉食魚で、食用に漁獲される[1][2]。
マルソウダは最大全長50cm前後[2]、ヒラソウダは最大60cm前後と[1]、ヒラソウダの方がやや大型になるが、両種とも通常のサイズは、全長40cmほどまでである[6]。
名前の由来は、「鰹に似たれば〈鰹だそうだ〉といいしを、倒置したる魚名(カツオに似た魚)」(広辞林)、「常に群集して、水面にしぶきを立てながら小魚を捕食する。(集まって騒ぐ・騒々しい)ということで『ソウダガツオ』の呼称は(騒々しく騒ぐ鰹)の意味」とされる[7]。
混称の通りカツオに近縁で、鱗はカツオと同様に目の後ろ、胸鰭周辺、側線沿いにしかない。ただしカツオよりは小型で、体型も前後に細長く、外見はサバにも似る。
類似する近縁種にスマがあるが、スマとは異なり胸鰭下に斑点がないことから区別できる。なお、後述のようにヒラソウダを「スマ」(スマガツオ)の地方名で呼ぶ場合があるため、注意を要する[1]。
またカツオと異なり、捕獲した際などには腹側に縞模様が出ない。吻部が短く、目が口先に近づいていることから「メヂカ(目近)」の地方名で呼ばれることがある[6]。
春から初夏にかけ[2]、20℃以上の水温帯で産卵する[6]。卵から孵化後、1年で25cm前後、2年で33cm前後、3年で40cm前後に成長する[2]。
全世界の熱帯・亜熱帯・温帯海域に広く分布し、沿岸から沖合いにかけての表層を、大群で回遊する[1][2]。肉食性で、小さいときには小型の甲殻類、成長するとイワシなどの小魚を捕食する[2]。また、マグロ・カジキ・サメなどの大型肉食魚、クジラ類に捕食される[2]。
ソウダガツオの稚魚は、沿岸から沖合いまで高密度に出現することから、莫大な資源量が予測され、未利用資源としても注目されている[6]。
ソウダガツオ属は2種のみが分類され、それぞれ2亜種に分けられる。
2種の区別点は以下のようなものがある。
食用として流通する際は、この2種を区別しないことが多く[8]、地方名も2種共通の名前が多い[2]。
本ガツオ(標準和名カツオ)の漁獲量が少ない日本海側では、「カツオ」と言えばソウダガツオのことを指す[9]。
その他の俗称としては、ソウダガツオ[8]、メヂカ(メジカ、近畿地方)[8]、フクライ(宮城県気仙沼で両種を混称)[1][2]、ローソク(マルソウダの幼魚のこと、高知県・和歌山県・東京都・神奈川県にて)などがある[8]。
個別の地方名は、ヒラソウダがシブワ(静岡県伊豆半島西岸・沼津)、シロス(高知県中土佐町などで幼魚を指す)、スマ・スマガツオ(和歌山県串本町、徳島県阿南市・海陽町宍喰、高知県室戸市三津・宿毛市田ノ浦すくも湾漁協など)ソマ・ソマガツオ(三重県尾鷲市・熊野市や和歌山県串本町・那智勝浦町などの熊野地方)[1]、フクライ[9]、ソマ[9]、ソマガツオ[1]、ホンズマ(和歌山県)などである。
マルソウダは、ウズワ(神奈川県真鶴、静岡県沼津市周辺)、コガツオ(三重県尾鷲市)、メジカ(メヂカ・メチカとも。徳島県・高知県など)[2]、マルメジカ[9]、マンダラなどの地方名で呼ばれる[9]。
一本釣り・巻き網・定置網などで漁獲される[1][2]。主に定置網で漁獲され、その量は年間30,000トン程度に達する[6]。その中でも、後述の「宗田節」の原料となるマルソウダは、日本全国の水揚げ量のうち40%が高知県内で水揚げされている[10]。
日本近海では、秋から冬に南日本周辺海域に集まる[6]。その後、春から夏にかけて、北海道まで回遊する[6]。
釣りでは、アジ・サバ、マダイ狙いの、サビキ、天秤仕掛けのエサ釣りなどで、外道として釣れる[1][2]。海面近くを疾走するように泳いでおり、エサが落ちないうちに食いついてくる[2]。また、磯からのカゴ釣り、夏から秋の相模湾にて、疑似餌を使ったカッタクリ釣りでも、数が上がる[1]。
両種とも関東地方では、海水温が上昇する初夏以降、入り乱れて沿岸に回遊してくるが、マルソウダよりヒラソウダの方が、少し低めの水温にも対応している[11]。そのため、晩秋のころ、マルソウダが日本近海から去っても、ヒラソウダはしばらく釣れ続けることが多く、海水温が高めの年は、ヒラソウダが正月過ぎまで、日本沿岸を回遊していることもある[11]。
日本では、鰹節と同様の方法で、「宗田節」に加工して流通し、関東風のそばつゆなど、濃い口の日本料理に利用されることが多い[11][8]。
両種とも、特にマルソウダはイノシン酸など、うまみ成分が多く、濃厚なだしが取れる[11]。一方でまとまって取れないヒラソウダは、脂肪分が多いため宗田節への材料には向かず、非常にマイナーな魚である[9]。
ソウダガツオの一大産地であり、市の魚に指定されている高知県土佐清水市は[3]、市内にある足摺岬の沖合が、ソウダガツオの産卵場になっており[3]、日本産の宗田節の7割以上(年間水揚げ高6,000 - 7,000t)が[3]、同市で生産されている[12][13][14][15][16]。
両種とも旬は秋から冬とされるが[1][2]、両種とも血液中のヒスチジンが多く、鮮度劣化が早い[1][2][11][8]。
一度ヒスチジンから変性して発生したヒスタミンは加熱しても分解されないため、鮮度が落ちたものは食さないこと、ヒスタミンが生成されていない新鮮なうちに食べること、マルソウダは生食を避けるか、血合いを除去することが望ましい。
両種とも、またソウダガツオ類やサバ科の魚に限らず、いわゆる青物と呼ばれる回遊魚は全般的に、釣り上げてから速やかに適切な処理をし、早めに調理することが望ましい[17][18]。
高知工科大学の研究によればマルソウダは、同じくサバ科の海水魚で傷みが早いとされるゴマサバと同じ冷蔵保存条件で比較したところ、いずれも約2倍の速さで鮮度低下が進む傾向にあることが判明した[10][19]。
このようにマルソウダは特に傷みが早く、死後時間が経過すると、ヒスチジンから多量のヒスタミンが生成され、ヒスタミン中毒を起こしやすい[11][8]。このことから、生食は推奨されないとされ[11][8]、同種の鮮魚での流通は限定される[11]。
マルソウダは、宗田節に加工して出回ることが多いが、節取りにして蒸したものを、フレークにしてサラダ・かき揚げ・そぼろなどにすると美味である[11]。
また、節の原料になるほどうまみが豊富に含まれていることから、ヒラソウダも同様に言えることだが、煮付け・あら汁でも美味である[9]。
一方で高知県須崎市・高岡郡中土佐町では[20][21]、水揚げしたてのマルソウダの幼魚を「メジカの新子」と呼んで珍重し、8月から9月下旬の約1か月間という短い期間のみ[22]、刺身で食べる食文化がある[9][23][24]。
マルソウダの多くを水揚げしている須崎市の須崎漁港や、釣り漁法にて水揚げしている中土佐町の久礼漁港・上ノ加江漁港周辺の地域においては[10]、マルソウダの刺身は「すぐに当たる(食中毒になる)魚」とされてはいるものの、「漁獲した当日中のみ刺身で食べられる」という制約の下、時にはカツオの刺身以上の高級食材として流通している[10][25]。「メジカの新子」は、中土佐町の久礼大正町市場などで季節の風味として親しまれてきたほか、最近では大産地として知られる同県土佐清水市でも提供が始まっている[24]。
ヒラソウダはマルソウダに比べて血合いが少なく、脂肪分が多い[11]。
本種も鮮度落ちが速く[1]、流通は多くが産地周辺に限られる[1]。しかし本種は前述のように鮮度保持にさえ気を付ければ[8]、とても美味な魚で[1][11]、新鮮なものは刺身[1][11]・タタキ(土佐造り)[1][11]・なめろう[1][9]・ヅケなど生食で賞味できる[1]。
1kg前後まで育つとかなり美味とされる本種は、秋から冬が旬であるが、中でも皮の下に白い脂肪の層があるものは、脂が乗って非常に美味である[1][9]。
特に1.5kg前後の大型個体は、同サイズのカツオより美味とされ[11]、刺身としては「赤身魚の最高峰」[9]・「サバ・カツオ類ではもっともうまい」と評する向きもある[1]。
生食以外にも、煮付け・竜田揚げ・塩焼き・みりん干しなどでも賞味できる[1]。
このように美味なヒラソウダではあるが、混獲されるカツオより鮮度が落ちやすく[9][3]、商品価値は低いため、カツオの漁場である三重県の伊勢志摩地方では、漁師がカツオ漁の折に獲れたヒラソウダを、船上でぶつ切りにして醤油に漬け、あらかじめ用意した酢飯と混ぜ、即席のまかない料理として食べた[11]。同地方の郷土料理である、ちらし寿司の一種「手こね寿司」は、この漁師料理が起源とされる[11]。
ソウダガツオを「ウズワ」という地方名で呼ぶ静岡県伊東市では[26]、細かく刻んだ「ウズワ」のたたきと、同じく細かく刻んだ青唐辛子を和え、丼に盛り付けた白飯とともに食べる漁師直伝の料理「うずわめし」がある[27][28][26]。伊東市内の「究極のローカルフード」と称される「うずわめし」は[27][28]、以下のように3度の異なる味わいが楽しめる[26]。
2016年7月26日、テレビ東京系列で放送された「なないろ日和!」では、タレント・藤原倫己、温泉ソムリエ・大藤浩一が、同市の海鮮食堂・居酒屋「伊豆鮮魚商 まるたか」(静岡県伊東市湯川1丁目16-6、地図、JR伊東線・伊豆急行伊豆急行線の伊東駅より徒歩1分)を訪れ、「うずわめし」を賞味した[26]。