テンツキ属(Fimbristylis)は、単子葉植物カヤツリグサ科に属する植物の一群である。一年生、または多年生の草本で、テンツキ、ヒデリコ、ヤマイなど、目立たないがごく身近な植物も含まれる。
多くは株立ちになる草本で、匍匐茎は出さないものが多い。根出葉を出し、葉はごく細長い。根出葉の葉身が退化して、鞘だけになるものもある。花茎は節がなく、枝分かれせずに伸びて、先端に花序をつける。まず、花茎の先端には一つの小穂がつく。それ以上の分枝がなく、小穂を一つだけしかつけないものもあるが、多くのものは分枝をして、多数の小穂をつける。穂の基部から1~数個の枝が横に伸びてその先にさらに小穂がつけ、これを繰り返すと、線香花火のような、火花が跳び散ったような花序ができあがる。花序の基部には苞葉がつくが、あまり発達しないものが多い。
小穂は、普通は鱗片が螺旋状に並んだ、ドングリのような形の場合が多い。鱗片と果実は、熟すると脱落するので、次第に根元の方から小軸が露出する。鱗片に包まれた花には花被にあたるものはなく、雄しべと雌しべのみが含まれる。ただし、雄しべの花糸は偏平なので、果実が熟したものでは、花弁のように見えることもある。多くのものでは果実は倒卵形で、柱頭がその先端から伸びる。柱頭の基部が膨らみ、その基部で離脱するのがテンツキ属の特徴である。
果実は堅くなり、表面に特有の凹凸をもつものがある。テンツキとその近縁種では格子状の溝があり、白っぽく熟する。ヒデリコの場合、薄茶色になり、表面には半球形の盛り上がりが散在する。アオテンツキの果実は、細長くて、側面のあちこちから、釘の頭のような突起が突き出す。
近縁属のハタガヤ属(Bulbostylis)のものは、柱頭基部で離脱しない。
湿地から普通の野原まで生育する種があり、一部は海岸に生育する。
テンツキ(F. dichotoma (L.) var. tentsuki T. Koyama)は穂の高さが50cmにもなる草本で、やや湿った草地にはえる。水田ではあぜ道や周囲の草地で見かけることもある。全体に毛がはえている。柱頭は平らで先端は二つに分かれ、基部の縁には毛がはえる。果実は白く熟し、表面には格子模様の溝がある。本州南部以南では大柄で毛の少ない変種クグテンツキ(F. dichotoma var. floribunda Ohwi)がある。
やはり湿った草地によく出現するものにヤマイ(F. subbispicata Nees et Meyen)がある。茎の先端に大型の小穂が一つだけつくという、テンツキ属では例外的な姿である。
水田でよく見かけるのはヒデリコ(F. milliacea (L.))である。小穂は丸くて小さく、数が多いので他のものとは区別がつきやすい。葉は左右から偏平な剣状で、それが並んで生えた根元は平らになっている。
メアゼテンツキ(F. velata R.Br.)は、水田や湿地にはえる小型種で、雌しべの基部に毛を密生して、それが果実を覆うようになっているのが特徴である。
アオテンツキ(F. verrucifera (Maxim.))は、特に干上がった池の底の泥地によく発生する小型種である。小穂は丸っこく、果実は細長くて、縁に沿ってクギの頭のような突起がある。
海岸に生えるものもある。ビロードテンツキ(F. sericea (Poir.))は、砂浜に生える種で、全体に毛が密生する。イソヤマテンツキ(F. sieboldii Miq.)は、海岸の岩場や草地に生え、岩場では背が低く、密な固まりになるが、草地では真っすぐに立ち、50cmほどになる。この種は、沖縄では干潟に生えて、葉身がなくなり、フトイかなにかのような群落を形成する。これをシマテンツキ(F. sieboldii subsp. anpinensis (Hayata))という。シオカゼテンツキ(F. cymosa R.Br)は多数の細い葉をロゼット状につける。