dcsimg
Image of Hypsibius
Creatures » » Animal »

Water Bears

Tardigrada

緩歩動物 ( Japanese )

provided by wikipedia 日本語
曖昧さ回避クマムシ」はこの項目へ転送されています。お笑いコンビについては「クマムシ (お笑いコンビ)」をご覧ください。
緩歩動物門
Tardigrada
生息年代: カンブリア紀現世
Waterbear.jpg
Hypsibius dujardini ドゥジャルダンヤマクマムシの電子顕微鏡写真
分類 : 動物界 Animalia 上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa 階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda : 緩歩動物門
Tardigrada Spallanzani, 1777
 src=
ドゥジャルダンヤマクマムシ英語版C. elegans (線虫、体長約1ミリメートル)を並べた電子顕微鏡写真。
 src=
オニクマムシ

緩歩動物(かんぽどうぶつ)は、緩歩動物門に属する動物の総称である。4対8脚のずんぐりとした脚でゆっくり歩く姿から緩歩動物、また形がクマに似ていることからクマムシ(熊虫)と呼ばれている。また、以下に述べるように非常に強い耐久性を持つことからチョウメイムシ(長命虫)と言われたこともある。

体長は50マイクロメートルから1.7ミリメートル熱帯から極地方、超深海底から高山温泉の中まで、海洋陸水陸上のほとんどありとあらゆる環境に生息する。堆積物中の有機物に富む液体や、動物や植物体液(細胞液)を吸入して食物としている。

およそ1000種以上(うち海産のものは170種あまり)が知られている。

特徴[編集]

外部形態[編集]

体節制は不明確。基本的には頭部1環節と胴体4環節からなり、キチン質の厚いクチクラで覆われている。真クマムシ目のものは外面がほぼなめらかだが、異クマムシ目のものは装甲板や棘、毛などを持ち、変化に富んだ外見をしている。

胴体部の各節から出る4対の脚を持つ。歩脚は丸く突き出て関節がなく、先端には基本的に4-10本の爪、または粘着性の円盤状組織が備わっている。

頭部に眼点を持つものがあるが、持たないものもある。口の近くに口縁乳頭などの小突起を持つ例もあるが、外部に出た触角や口器などはない。

内部形態[編集]

体腔は生殖腺のまわりに限られる。から直腸からなる消化器系を持つ。排出物は顆粒状に蓄積され、脱皮の際にクチクラと一緒に捨てられる。

呼吸器系循環器系はない。酸素二酸化炭素の交換は、透過性のクチクラを通じて体表から直接行う。神経系ははしご状。通常、1対の眼点と、、2本の縦走神経によって結合された5個の腹側神経節を持つ。

生殖と発生[編集]

多くの種では雌雄異体だが、圧倒的に雌が多い。雌雄同体や単為発生も知られる。腸の背側に不対の卵巣又は精巣がある。産卵は単に産み落とす例もあるが、脱皮の際に脱皮殻の中に産み落とす例が知られ、脱皮殻内受精と呼ばれる。

幼生期はなく、直接発生して脱皮を繰り返して成長する。その際、体細胞の数が増加せず、個々の細胞の大きさが増すことで成長することが知られる。

生態[編集]

陸上性の種の多くは蘚苔類などの隙間におり、半ば水中的な環境で生活している。上や先のコケなどにも棲んでいる。これらの乾燥しやすい環境のものは、乾燥時には後述のクリプトビオシスの状態で耐え、水分が得られたときのみ生活していると考えられる。

水中では水草藻類の表面を這い回って生活するものがおり、海産の種では間隙性の種も知られる。遊泳力はない。

クリプトビオシス[編集]

詳細は「クリプトビオシス」を参照

一部の緩歩動物は、乾眠(かんみん)によって環境に対する絶大な抵抗力を持つ。乾眠(anhydrobiosis)はクリプトビオシスの一例で、無代謝休眠状態である。この現象が「一旦死んだものが蘇生している」のか、それとも「死んでいるように見える」だけなのかについて、長い論争があった。現在ではこのような状態を、クリプトビオシス(cryptobiosis '隠された生命活動'の意)と呼ぶようになり、「死んでいるように見える」だけであることが分かっている。他にも線虫ワムシアルテミア(シーモンキー)、ネムリユスリカなどがクリプトビオシスを示すことが知られている。

乾眠の過程[編集]

緩歩動物は周囲が乾燥してくると体を縮める。これを「樽(tun)」と呼び、代謝をほぼ止めて乾眠の状態に入る。乾眠個体は、後述する過酷な条件にさらされた後も、水を与えれば再び動き回ることができる。ただしこれは乾眠できる種が乾眠している時に限ることであって、全てのクマムシ類が常にこうした能力を持つわけではない。さらに動き回ることができるというだけであって、その後通常の生活に戻れるかどうかは考慮されていないことに注意が必要である。

乾眠状態には瞬間的になれるわけではなく、ゆっくりと乾燥させなければあっけなく死んでしまう。乾眠状態になるために必要な時間はクマムシの種類によって異なる。乾燥状態になると、体内のグルコーストレハロースに作り変えて極限状態に備える。水分がトレハロースに置き換わっていくと、体液のマクロ粘度は大きくなるがミクロな流動性は失われず、生物の体組織を構成する炭水化合物構造を破壊されること無く組織の縮退を行い、細胞内の結合水だけを残して水和水や遊離水が全て取り除かれると酸素の代謝も止まり、完全な休眠状態になる。ただし、クマムシではトレハロースの蓄積があまり見られないため、この物質の乾眠への寄与はあまり大きくないと考えられている。

耐性[編集]

クマムシは非常に大きな耐性強度を持つことで知られている。ただしそれは他の多細胞生物と比較した場合の話であり、単細胞生物では芽胞を作ることにより、さらに過酷な環境に耐えることができるものもいる。

  • 乾燥 : 通常は体重の85%をしめる水分を3%以下まで減らし、極度の乾燥状態にも耐える。
  • 温度 : 151℃の高温から、ほぼ絶対零度(0.0075ケルビン)の極低温まで耐える。
  • 圧力 : 真空から75,000気圧の高圧まで耐える[1]
  • 放射線 : 高線量の紫外線X線ガンマ線等の放射線に耐える。X線の半致死線量は3000-5000Gy(ヒトの半致死線量は4Gy)。[2]

なお、クマムシはこの状態で長期間生存することができるとする記述がある[要出典]。例えば、「博物館の苔の標本の中にいたクマムシの乾眠個体が、120年後に水を与えられて蘇生したという記録もある」など、教科書や専門書でもそのように書いているものもある[要出典]。ただし、この現象は実験的に実証されているわけではなく、学術論文にも相当するものはない。類似の記録で、120年を経た標本にて12日後(これは異常に長い)に1匹だけ肢が震えるように伸び縮みしたことを観察されたものはあるものの[要出典]サンプルがこの後に完全に生き返ったのかどうかの情報はない。通常の条件で樽の状態から蘇生して動き回った記録としては、現在のところ10年を超えるものはない。常温だと酸化により樽がダメージを受けるためで、極低温や無酸素状態で保管するのであれば、理論上は半永久的に生存が可能であろうと、クマムシ研究の堀川大樹教授は主張している[3]

2007年、クマムシの耐性を実証するため、ロシアの科学衛星フォトンM3でクマムシを宇宙空間に10日間直接さらすという実験が行われた。回収されたクマムシを調べたところ、太陽光を遮り宇宙線と真空にさらした場合、クマムシは蘇生し、生殖能力も失われないことが確認された。太陽光を直接受けたクマムシも一部は蘇生したが、遮った場合と比べ生存率は低かった[4]

耐性は乾眠によって強化されている可能性がある。2015年の米科学アカデミー紀要(PNAS)掲載論文によれば、クマムシの一種の遺伝子は水平伝播による外来遺伝子が全体の17.5%にも及ぶという。大部分は細菌のDNAで、その他菌類植物古細菌ウイルスのDNAが含まれ、ストレス耐性にかかわるものもあったとされる。その仕組みについては、乾燥した細胞膜が物質を透過しやすい状態になり、そこで混入した外来遺伝子がDNA修復の際に組み込まれると推定されると主張している[5]。ただし、異種の動植物の遺伝子の割合が高かったのはサンプルが汚染されていたからではないかとの指摘がなされている[6]

分類[編集]

緩歩動物は以前は節足動物に含まれていたこともあり、また、舌形動物 (Pentastomida) 、有爪動物 (Onychophora) とともに側節足動物 (Pararthropoda) と呼ばれていたこともあったが、現在では3綱5目15科からなる独立した門に分類され、有爪動物節足動物と共に汎節足動物を構成する。

緩歩動物の最初の化石は、カンブリア紀の岩石から見つかっている。系統発生的には、節足動物系統が分岐したあとで、節足動物系統から有爪動物らと共に分岐したとされている。

関連項目[編集]

  • クマムシさん - クマムシをモデルにしたキャラクター。日本人クマムシ研究者の堀川大樹により発案、デザインされた。

参考文献[編集]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ オニクマムシ(Milnesium tardigradum)の極限環境耐性:超高圧への耐性実験 (PDF)
  2. ^ K. Ingemar Jönsson, Thomas L. Hygum,Kasper N. Andersen. Tolerance to Gamma Radiation in the Marine Heterotardigrade, Echiniscoides sigismundi.PLoS ONE.2016; 11(12): e0168884. doi: 10.1371/journal.pone.0168884 PMID 27997621
  3. ^ 第3回 堀川大樹 宇宙生物学とクマムシと私」ナショナル・ジオグラフィック2014年4月15日
  4. ^ 「地球最強の生物」クマムシ、宇宙でも生存可能, WIRED.jp, 2008年9月9日
  5. ^ Liz Langley/米井香織 (“「最強生物」クマムシ、衝撃のDNA構成が判明”. ナショナルジオグラフィック日本版. http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/a/120100053/
  6. ^ “ヒトDNAをX線から守るクマムシ由来のタンパク質を発見、東大研究”. AFPBB News. http://www.afpbb.com/articles/-/3101607?pid=18316000

外部リンク[編集]

 src= ウィキメディア・コモンズには、緩歩動物に関連するカテゴリがあります。  src= ウィキスピーシーズに緩歩動物に関する情報があります。
 title=
license
cc-by-sa-3.0
copyright
ウィキペディアの著者と編集者
original
visit source
partner site
wikipedia 日本語

緩歩動物: Brief Summary ( Japanese )

provided by wikipedia 日本語
 src= ドゥジャルダンヤマクマムシ英語版)と C. elegans (線虫、体長約1ミリメートル)を並べた電子顕微鏡写真。  src= オニクマムシ

緩歩動物(かんぽどうぶつ)は、緩歩動物門に属する動物の総称である。4対8脚のずんぐりとした脚でゆっくり歩く姿から緩歩動物、また形がクマに似ていることからクマムシ(熊虫)と呼ばれている。また、以下に述べるように非常に強い耐久性を持つことからチョウメイムシ(長命虫)と言われたこともある。

体長は50マイクロメートルから1.7ミリメートル熱帯から極地方、超深海底から高山温泉の中まで、海洋陸水陸上のほとんどありとあらゆる環境に生息する。堆積物中の有機物に富む液体や、動物や植物体液(細胞液)を吸入して食物としている。

およそ1000種以上(うち海産のものは170種あまり)が知られている。

license
cc-by-sa-3.0
copyright
ウィキペディアの著者と編集者
original
visit source
partner site
wikipedia 日本語